「村の人たちは決して美しい村をつくってきたわけではなくて、ここに生きるため、ここで生きるために、田を下に配置し、家と畑を山側においた。そのことが水による一定の秩序を村の風景に持たせたのである。あえて言えば生存風景である。それが結果として美しいのである。」
(地元学の吉本拓郎氏)
生存風景という美観
里山里海は人と自然が折り合った生産風景です。
まるで湖が出現したかのような鏡の水田。湧き上がるカエルの合唱にホタルが飛び交い、やがて虫の音に変わる頃、黄金色に染まった大地が風でうねります。
身近な森から職人が作り出した道具は古くなるチカラを授かって使い込むほどにその真価を発揮し、背後の山の木から三世代かけて作られた家が家族を見守り、やがて朽ちて土に還ります。
里山里海は食卓にのぼる料理の素材がそのまんま風景となった春夏秋冬の恵みの姿です。
稲穂と畦の大豆の風景はご飯と味噌汁の朝ごはん。旬の野菜・山菜・キノコ・ゆらめく海藻と夕涼みがてらに釣った魚が今晩のおかずです。
食後の柿やアケビ、おやつの栗や胡桃、米の酒にはムカゴや干物がつまみです。蔵の中では発酵食が熟成して冬を迎えます。
里山里海は同じように見えて全部違う固有の存在で組み上がったモザイクです。
私のお気に入り、その人しか知らないありか、在所が共有する知恵。ひとつひとつの微妙な違いを大切にすれば、「当り前」と思っていたものが「地域の宝」になります。
里山里海には先人から子孫へのメッセージが込められています。
柿の大木にしがみついた子供がよだれを垂らして見上げる時、きっとあの世でだれかがにっこり笑っているでしょう。
【編集後記】能登の里山里海は 2011年6月 に世界農業遺産に認定されました。正式にはGlobally Important Agricultural Heritage Systems(世界的に重要な農業遺産システム)のことでGIAHS=ジアスと呼ばれます。
それがなんだか全然わからないという地元の声に答え、実感できるようにかみ砕いて伝えました(広報のと平成24年3月号に掲載)。
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