【風土千年】日本の原風景の正体は?

移住者が見た能登

景観十年、風景百年、風土千年といいます。千年続く能登の風土の正体、それは能登の家族ではないでしょうか。家が伝承する風土です。

家族という担い手

例えばユネスコの世界無形遺産に登録された「アエノコト」。田の神様を実在する客のように家長が接待する振る舞いがユニークな原初的農耕儀礼。それが「家族の神事」として存続していたことに世界が驚きました。
豊作への感謝を神社の儀式とせず、千年の昔のまま祈りを捧げる家族行事として手放さなかった能登。タイムカプセルのような風土です。

大きなキリシマツツジが農家や旧家に点在し、樹齢百年以上の古木【のとキリシマツツジ】が五百本以上ある能登半島。「こんな所は世界にない」とツツジ研究の先生も驚きました。
江戸時代の園芸品種キリシマは一世を風靡してから消えていったのに、能登では引き抜かれることなく育てられていたのです。
数百年前に苗木を植えた当の本人は見られなかった夢の情景を、何世代も受け継いできた子孫が深紅の大木として愛でています。まさに一本一本が風土そのもの
他にも合鹿椀・壮麗な仏壇・発酵食文化・伝承などこのような例は枚挙に暇なしです。

能登半島が世界農業遺産になって今度は能登の人が驚きました。家庭内の古臭いモノ・コトにも地域、日本、世界に通じる価値があると評されました。時間的蓄積はどんなにお金を積んでも作り出せない価値です。

大げさに言うと、能登には江戸時代のマインドがまだ残っている

そのままを繰り返すこと、維持すること、継承することが正しいと重んじる気風が強く、それを支える家長制や村落共同体がまだギリギリ機能しています。逆に革新や進歩は肌に合わないようで先導を好みません。
現代のような激しい変化の中にあって、伝統を見直しながらも本来の形で継承しようという努力は、むしろ前向きな取り組みです。

ところで家族が風土を担ってきたのなら、人が居なくなれば五百年・千年と続いてきた風土が消滅することを意味します。大きな「のとキリシマツツジ」が空き家の庭で満開を迎える時、問いかけてくるようでした。

【編集後記】能登は日本の原風景とよく言われます。私はその理由を一世代まるまる遅いからじゃないかと考えています。
他の地域では記録や伝承でしか確認できないような習俗を能登ではまだ現役が担っていたり、小さい頃に経験した人からギリギリ話が聞けたりします。昔は全国でごく普通だったのに今では失われつつある風景が残されています。皮肉なことですが能登が“時代に取り残された”ことが幸いした、と思うのです。

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