【あえのこと御膳】田の神様のご馳走

能登観光ガイド

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あえのこと」は奥能登に伝わる冬の農耕儀礼で家族の神事。神人共食の原初的な形態でユネスコ世界無形遺産です。でもそんなむずしいことよりもビックリすることがあります。
それは家長が田の神様をまるで実在する客のように接待すること。田んぼから玄関まで道案内し、お風呂に入れ、ご馳走して感謝の口上を述べます。もちろん神様は見えません。まるでパントマイムの一人芝居のようです。


そこで気になる神様のお食事をちょっとのぞき見。
(以下スケッチの書き起こしです)

御膳の例:朱塗りか黒塗りの御膳で

田の神様は夫婦とされるが、ひとりや三人の場合もある。御膳もその数に合わせる。

二の膳
・はちめ(メバル)旬魚の定番。赤でも黒でもよい。生魚のまま供す。
・おはぎ つぶあんときなこ
・合鹿椀に甘酒

一の膳
・酢の物:大根なます
・平椀盛り:煮しめは5品か7品の具材をそろえる。ただし焼き物や蒸し物は入れない。
・白米のてんこ盛り:白米を腹いっぱい食べられるのは直会の楽しみ。小豆飯もよい。
・刺身:ブリは縁起のいい出世魚。迎えのあえのことの12月5日は旬のはじまり。2月9日の送りのあえのことはタラの子付けとタラ汁を供す。
汁物:納豆汁 粘り強く働くから。
栗の木の箸36㎝ 枝から削り出し1寸2尺の長さにする。12ヶ月を表し、鎌の柄と同じ長さ。

『神座』
田の神様 依代はヒサカキ
さんだわら(俵のふた)に座す。座布団も可。

山の幸・里の幸(身の回りで収穫)

供物の種数は奇数

お膳の上:銀杏・白米(1升2合盛り)・小豆・栗・黒豆
み( 箕 )の中:白菜・柿・里芋・金糸瓜・さつまいも・にんじん
二股大根:子孫繁栄と生殖の象徴。二股は女性・1本は男性を示し夫婦和合を表す。
平鍬:農作業にまつわる道具も置き、客間に菰(こも)を敷く。

縁起・言い伝え・やり方

●稲作由来の禁忌として、「焼く」は田が焼けるので✖。「蒸す」も湿気による病虫害に通じ縁起が悪い。
●その時期に身の回りにあるものや手に入れられるもので神様をもてなすのが基本。
直会(なおらい)としてごちそうのおさがりを家族で食べられる素朴な喜びがあえのことを続ける強い動機だった。
●この神事に「正式」や「略式」はなく、多様。代々各家族に伝わるやり方がすべて正しい

【編集後記】
12月5日に家に招き入れられた田の神様はそのままお正月を過ごし、2月9日にもとの田んぼに送り出してもらいます。つまりあえのことは「迎え」と「送り」の2回やるのです。

(子) 「タノカンサー(田の神様)、どこにおるが?」
(婆) 「じいさまの後ろをいざってらっしゃるやろ。ほれ、あんたには見えんがか?」
そんなほほえましいやりとりもあったあえのこと、今ではする人も減って大勢の田の神様がホームレスになってしまいました。お宅でも昔のやり方を思い出して、家に神さまをお迎えしてみませんか?これは能登の農家しか受け継げない家族の神事なのですから。

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