能登だけで通じるキノコの名前がたくさんあります。
しばたけ、ずべり、のめろ、このみたけ、あかたけ、じこう、いっぽん・・・
中でも秀逸なのは「ごっさかぶり」。木の枝や落葉(ごっさ)に埋もれているキノコという意味で、生態や見つけた時の様子をいきいきと表しています。一般名の「クリフウセンタケ(ニセアブラシメジ)」よりもずっと味わいがある名前です。
このことはいかにキノコを待望しそのほとんどを地元で消費してきたかを示す証拠です。採る者と食べる者がそれだとわかればいい名前。例えば同じキノコが、ずべり、ずべたけ、ずべろ、のめろ、と山ひとつ谷ひとつで違うこともあります。もし広く流通させる目的があれば標準和名に統一されていたはずですがそうはなっていません。そもそもキノコを『コケ』と呼ぶのも独特です。
とにかく能登のキノコ熱、いやコケ好きは尋常ではなく都会の人が全く知らないキノコをたくさん食べています。山野には致死性の毒キノコが普通に生えているので野生のキノコは十分な知識と経験があってこそ手に入れられるものです。昔から里人の数少ない現金収入源でした。高価なキノコの採集場所はたとえわが子でも教えず墓場まで持って行く、というのもあながち冗談ではなさそうです。
キノコというマンダラ
キノコ(子実体)は植物でいえば花。子孫を残す(胞子を飛ばす)器官で一瞬の存在ですが、本体は掘り返せば薄い綿のようにも白い葉脈のようにも見える菌糸体です。
菌糸体が植物の根をパックするように包みこむ「菌根菌」は特定の樹木と栄養をやり取りして共生しています。松とマツタケが一例で最も進化したキノコです。土の中の植物と菌類の壮大なネットワークについて人間は全く無知です。
「腐生菌(木材腐朽菌)」という仲間は植物繊維さえ分解して、すべての植物を土に還元します。地上の森が作り出した有機物を地下の菌糸の森が無機物に還元し永遠に巡っているのが地球の生態系の本質です。ちなみに世界最大の生命体はキノコだと言われています。
キノコは期間限定の美味をもたらしながらも生死を分かつ危険をはらみ、見えない土中で分解と還元をつかさどって生命の大循環を支える小さな巨人です。食べる興味の先には未知なるキノコの世界への扉が開かれています。
【編集後記】キノコの真の偉大さは植物繊維を分解できるように進化したこと、つまり 生態系における炭素循環の最後のピースをはめたことです。
信じられないことですが大古のシダの巨木は腐ることなく積み上がっていました。その残骸が化石化した石炭がその証拠です。それが3億年前からキノコによって分解され土となって循環するようになりました。
植物の根と菌糸体が共生して栄養をやりとりする菌根菌も不思議。もしかしたら森の木々はすべて菌糸のネットワークによって互いにつながっているのかもしれません。
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